医療現場で働く人と言えば、医師や看護師が真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。けれど、医療の現場は医療に関連する仕事だけではありません。近年は患者一人ひとりのデータがコンピュータ化され、医療機関に保管されています。大事な個人情報が詰まっていますので、こうした情報の管理も欠かせません。これらの個人情報を間違いのないようにコンピュータに入力し、適切に保管する役目を担っているのが医療事務従事者です。さらに、高齢化が急速に加速する日本において医療機関を受診する人の割合は、圧倒的にお年寄りが占めています。その一方で、医療機関には続々とコンピュータが導入され、かつては窓口で行っていた診療受付や支払いなどを専用の端末で行う方法に切り替えてきました。大きな病院のほとんどは、自分で端末を操作し、受診して支払いを行わなければならないのです。高齢者にとってコンピュータの操作は非常に難解で、初めて受診する人も戸惑うでしょう。こうした人たちを案内し、スムーズに受診できるよう導くのも医療事務の仕事の一つとなりました。医療事務の仕事には医療現場と受診する人を繋ぐという、大きな責任が加わったのは間違いないと言えます。
かつて医療事務と言えば、医師が記載したカルテを見ながら点数を計算し、受診した人の負担割合に沿って医療費を算定するのが主な仕事でした。また、診療報酬明細書を作成し、毎月の診療費を請求するといったデスクワークが中心だったのも特徴です。近年、カルテや診療報酬明細書は全てコンピュータに入力しますので、事務に要する時間は短縮されたといっていいでしょう。ただ、事務仕事の時間短縮を実現したコンピュータが、新たな難題を生み出しました。それは、多くの高齢者がコンピュータの操作が苦手なことです。そのため、受診する前の手続きに時間がかかるという、これまでになかった問題が新たに生まれました。医療を受けるにあたっての混乱を防ぎ、スムーズに診察へと導くには、操作方法が分からない人に説明し、理解してもらう必要があります。つまり、これまではあまり必要ではなかったコミュニケーション能力が求められるようになったのです。懸命に考えてコミュニケーションを取った結果、ありがとうという感謝の言葉をもらえたら、医療事務という仕事をしていてよかったと感じるでしょう。それが、日々の仕事のやりがいにつながるのではないでしょうか。